- イデコの受取り方を間違えると何十万円も損するって本当?
- イデコと一時金、どちらで受取るのがお得なの?
- 退職金とイデコは同時に受け取ってもいい?
イデコの損をしない受取り方を知ることはとても重要です。イデコの受取り方法を間違えてしまうと、長年運用したお金が想定外の税金や手数料で目減りしてしまう可能性があります。
本記事では、ファイナンシャルプランナーの資格を持ち、iDeCo運用を7年行っている筆者が、職業別に損をしないiDeCoの受け取り方を解説します。
退職金がある人はイデコとの受取時期を10年以上ずらし、退職金がない人は一時金で一括受取で税負担をゆ減らせます。

カワハラ
- 投資で700万円運用中
- 新NISAで約312万円
- iDeCoで約388万円
- 投資歴は5年


イデコの受取り方は3通り

iDeCoの受取方法には年金・一時金・併用の3通りがあり、それぞれ異なる税制が適用されます。
iDeCoの受取り方の主な3つの方法を確認してみましょう。
年金で受取る
年金受取りは5年〜20年以下の期間で分割して受け取る方法です。毎月または毎年定額を受取り、受取額は「雑所得」として公的年金等控除が適用されます。
65歳未満なら年60万円まで非課税で受取れます。65歳以上の場合は、年110万円まで非課税です。
『公的年金等控除額の一覧表』を見る場合はここをタップ

控除額を超えた所得の部分は、所得税と住民税がかかります。公的年金の受給額が多い人は、iDeCoの年金と合算されるため税負担が重くなる可能性があります。
一時金で受取る
一時金受取りは積立資産を一括で受け取る方法です。受取る資産は「退職所得」として扱われ、退職所得控除が適用されます。資産を受け取る際の税金は、この退職所得控除額の範囲内であれば非課税です。
はじめに「退職所得控除額」を出します。計算式は次の通りです。
- 20年以下なら年40万円が控除
- 20年超なら800万円+70万円×(加入年数-20年)で出た金額が控除
次に、税金がかかる部分(課税対象額)を計算します。計算式は次の通りです。
- (老齢給付金の総額 - 退職所得控除額) ÷ 2 = 課税対象額
たとえば、iDeCoの運用結果が2,000万円・30年加入の場合、課税対象額の計算方法は次の通りです。
800万 + 70万×(30年 – 20年)= 1,500万
(2,000万 – 1,500万) ÷ 2 = 250万円
課税対象になるのは、250万円だけです。この250万円に対して所得税と住民税が課税されます。
年金&一時金を併用で受取る
併用受取りは資産の一部を一時金、残りを年金として受け取る方法です。一時金部分には退職所得控除、年金部分には公的年金等控除が適用されます。
併用受取りは、税金の計算は前章2つの方法を組み合わせたものです。
- 一時金部分は「退職所得」として(受取額-退職所得控除)÷2で計算
- 年金部分は「雑所得」として年金受取額から公的年金等控除額を差し引いて算出
両方の控除枠を使えるため、退職所得控除の範囲内で一時金を受取り、残額を年金にすることで税負担を抑えられます。受取比率や時期を自由に設定できるのがメリットですが、複雑な計算が必要なため事前のシミュレーションが重要です。
【職業別】イデコで損をしないお得な受取り方
職業や退職金の有無により、最もお得なiDeCo受取方法は異なります。各職業の特徴に応じた具体的な戦略をご紹介します。
会社員・公務員(退職金あり)
会社員で退職金がある場合、iDeCoとの受取時期を10年以上離すことが大切です。2025年の税制改正により、間隔が5年から10年に延長されました。iDeCo一時金と退職金の受取りを10年以上あけて受取れば、双方に満額の退職所得控除を適用できます。
たとえば、勤続年数42年の会社員が2,000万の退職金、イデコ資産1,500万の場合は次の通りです。
- 退職金に対する控除額:800万+70万×(42年-20年)= 2,340万 > 2,000万なので非課税
- イデコに対する控除額:800万+70万×(42年-20年)= 2,340万 > 1,500万なので非課税
一方で、10年の間隔をあけずに退職金とイデコ年金を同時に受け取った場合、約580万に対して所得税と住民税が課税されます。約580万を日本の所得税率表に基づき計算(①〜⑦)をすると約131万円を税金として支払うことになります。
- 退職金+イデコ=3,500万
- 退職所得控除=800万円+70万円×(42年−20年)=2,340万円
- (3,500万−2,340万円)÷2=580万
- 330万円超 695万円以下なので、税率は20%、控除額は42万7,500円
- 所得税額: 580万円 × 20% – 42万7,500円 = 73万2,500円
- 住民税は一律10%なので、住民税額: 580万円 × 10% = 58万円
- 73万2,500円+58万=約131万
一方で10年間隔をあければ両方とも非課税で受取れます。たとえば「65歳で退職金、75歳でiDeCo」など分散して受取る方法が理想的です。
会社員(退職金なし)
退職金がない会社員はイデコの一時金受取が有利です。退職所得控除枠をすべてiDeCoに充当でき、30年加入なら1,500万円(800万円 + 70万円 ×(30年−20年))まで非課税で受け取れます。
たとえばイデコで25年積み立てた場合、退職所得控除で1,150万円(800万+70万×(25年−20年))まで非課税で受取れます。控除枠を超える場合は、年金受取りとの併用で税負担を分散します。
自営業・フリーランス
自営業・フリーランスは退職金がないため、イデコを一時金で全額受け取るのがお得です。
たとえばイデコで35年拠出した場合、1,850万円(800万+70×(35年-20年))を退職所得控除として引き去りできます。引き去り後の残資産を年金として分割で受け取ります。
参考程度に月5万円を運用した場合の資産シミュレーションを見てみましょう。ここでは主力ファンドの平均利回り3%・5%で計算をしています。
月5万を運用した場合の資産を見る ▼をタップ
運用期間 | 累計積立額(元本) | 年利3%の場合 | 年利5%の場合 |
---|---|---|---|
5年 | 約300万円 | 約323万円 | 約341万円 |
10年 | 600万円 | 約702万円 | 約800万円 |
15年 | 900万円 | 約1,167万円 | 約1,452万円 |
20年 | 1,200万円 | 約1,732万円 | 約2,343万円 |
25年 | 1,500万円 | 約2,423万円 | 約3,607万円 |
30年 | 1,800万円 | 約3,277万円 | 約5,417万円 |
35年 | 2,100万円 | 約4,342万円 | 約8,004万円 |
自営業・フリーランスは、iDeCoの一時金と年金の併用で、税負担をほぼゼロに抑えられます。
主婦(夫)
主婦(夫)は退職金がない場合が多いため、基本的に一時金で受取る方法がおすすめです。掛金の上限が月2.3万円なので退職所得控除の範囲内で非課税で受取りできるケースが大多数です。
たとえば月2万円を25年積み立てた場合、元本600万円が800万円ほどの資産に成長します。一時金で受取れば、退職所得控除1,150万円(800万+70万×10年(25年-20年))が使えるので全額非課税で受取れます。
参考程度に月2万円を運用した場合の資産シミュレーションを見てみましょう。ここでは主力ファンドの平均利回り3%・5%で計算をしています。
月2万を運用した場合の資産を見る ▼をタップ
運用期間 | 累計積立額(元本) | 年利3%の場合 | 年利5%の場合 |
---|---|---|---|
5年 | 120万円 | 約132万円 | 約141万円 |
10年 | 240万円 | 約280万円 | 約320万円 |
15年 | 360万円 | 約466万円 | 約581万円 |
20年 | 480万円 | 約693万円 | 約937万円 |
25年 | 600万円 | 約969万円 | 約1,443万円 |
30年 | 720万円 | 約1,311万円 | 約2,167万円 |
35年 | 840万円 | 約1,737万円 | 約3,202万円 |
配偶者が会社員で厚生年金に加入している場合、世帯全体の年金収入を考慮して年金受取も検討できます。しかし多くの場合は一時金で受取る方が有利です。パート収入がある主婦(夫)も、他の退職金がなければ一時金受取を優先した方が有利な場合が多数です。
イデコ受取で失敗しないための3つのポイント
iDeCoの受取時には税制ルールや控除制度を正しく理解することが重要です。失敗を避けるための4つの重要ポイントを解説します。
イデコの加入年数を確認する
iDeCoの受給開始は加入期間により決まり、10年未満の場合は60歳より遅くなります。原則60歳から受給可能ですが、加入期間が10年に満たない場合は受給開始年齢が段階的に引き上げられます。たとえば加入期間8年なら62歳、6年なら64歳からの受給です。
イデコの加入期間 | 受給開始年齢 |
---|---|
10年以上 | 60歳 |
8年以上10年未満 | 61歳 |
6年以上8年未満 | 62歳 |
4年以上6年未満 | 63歳 |
2年以上4年未満 | 64歳 |
1ヶ月以上2年未満 | 65歳 |
受給開始の最終期限 | 75歳 |
加入期間が長いほど退職所得控除額も増加するため、早期加入が有利になる仕組みです。20年加入なら控除額800万円、30年なら1,500万円と大幅に非課税枠が使えます。
受給タイミングを遅らせることで運用期間を延ばすことも可能です。ただ、75歳までには受給を開始する必要があります。75歳になるまでに受給申請をしなかった場合は、自動的に一括での受取りとなります。
一時金の受取り時は会社の退職金額を確認する
一時金の受取り時は会社の退職金額を確認することが大切です。iDeCoを一時金で受け取る場合、会社の退職金額により税負担が大きく変わるからです。両方とも退職所得として扱われるため、同年に受け取ると控除枠が合算され、税額が大幅に増加する可能性があります。
2025年の税制改正により、2026年1月1日より「10年ルール」が適用されます。退職金とiDeCo一時金の受取間隔を10年以上空けることで、双方に満額の退職所得控除を適用できる制度です。

たとえば、60歳でiDeCoの給付金を受け取った場合、会社の退職金は70歳以降に受け取るのが理想です。
しかし、多くの会社員が60歳から65歳頃に退職することを考えると、現実的に10年の間隔を空けるのは難しいかもしれません。そのため、退職金がある会社員や公務員は、iDeCoの受け取り方をより慎重に検討する必要があります。
年金の受取り時は他の収入源を確認する
iDeCoを年金形式で受け取る場合、公的年金など他の収入源との合算により税額が決まります。公的年金等控除は65歳未満で年60万円、65歳以上で年110万円の非課税枠があり、iDeCoの年金と他の年金収入を合わせて判定されます。
公的年金等控除額の表を見る ▼をタップ

他の所得が少ない方は一時金受取で退職所得控除をフル活用する方が有利です。
一方、退職金が多い方や公的年金・iDeCo給付額が少ない方は年金形式が税負担を抑えられます。
退職金も年金も多い方は、控除枠内で一時金を受取り、超過分を年金で受け取る併用受取が最適です。
状況 | 最適な受け取り方 | おすすめの理由 |
---|---|---|
他の所得が少ない方 (例:自営業者、専業主婦・主夫) | 一時金で全額受け取る | 会社の退職金がないため、iDeCoの給付金だけで退職所得控除を最大限に活用できる |
会社の退職金が多い方 (例:会社員、公務員) | 年金で分割して受け取る | 退職金とiDeCoを同じ年に受け取ると、控除額が合算されて税負担が増すため、受け取り時期や形式をずらすのが有効 |
退職金も公的年金も多い方 | 一時金と年金を併用する | 退職所得控除の範囲内で一時金として受け取り、超過分を年金として受け取れば税負担を最小限に抑えられる |
まず自身の公的年金や他の所得額を確認し、それぞれの状況に応じた受取方法を選択することが大切です。
イデコの受取手続きは5ステップ

iDeCoの老齢給付金を受け取るには、主に5つのステップがあります。これらの手続きをスムーズに進めるための手順と注意点を解説します。
イデコを受取る為の5つのステップ
1. 受給資格の確認
60歳になると運営管理機関から送られてくる『老齢給付金裁定請求書』を確認します。この通知書は、iDeCoを受け取るための最初の重要な書類です。
『老齢給付金裁定請求書』で確認すべきポイントと注意点は次の通りです。
項目 | 確認内容 |
---|---|
1. 受給資格の確認 | 加入期間が10年以上あるか確認 |
2. 受給開始可能年齢 | 加入期間に応じて、受給開始年齢が60歳~65歳であるか確認する。 |
3. 運用指図者への変更 | 60歳以降も資産を運用するか確認 |
4. 受給方法の選択準備 | 一時金・年金・併用のどれを選ぶか検討 |
5. 登録情報の確認 | 氏名、住所、マイナンバーなどの登録情報が正しいか確認 |
送られてきた書類は必ず確認し、記載内容に誤りがあれば早めに運営管理機関に連絡をしてください。
必要書類の準備
iDeCoの給付金を受け取るための必要書類は多岐にわたります。スムーズな手続きのために、早めの準備をおすすめします。
書類名など | ポイント |
---|---|
老齢給付金裁定請求書 老齢給付金裁定請求書 勤務先からの退職金等のお受取り状況確認書 | イデコ運営管理機関から送られてくる |
印鑑登録証明書 | ※発行日から3ヶ月以内の原本 |
退職所得の源泉徴収票のコピー | イデコ以外に退職金等の受取りが有る場合に必要 |
本人確認書類 | マイナンバーカードのコピーでOK 無い方は住民票や運転免許証などの写し |
受取り方法の決定と申請
運営管理機関から郵送されてくる裁定請求書には、「受け取り方法」や「受け取り開始時期」などの重要事項を記入します。記入漏れや不備がないように、内容をしっかりと確認しながら記載しましょう。
審査と結果通知
裁定請求書を返送すると、運営管理機関による審査がおこなわれます。問題がなければ、約2週間前後で「給付裁定結果通知書」が届きます。通知書が届いたら、金額や受け取り方法が申請内容と一致しているか、間違いがないか必ずチェックしましょう。
受給開始
書類の取り寄せから受給開始まで、一般的に1〜2ヶ月程度かかります。給付が決定すると、iDeCoの運用商品の売却手続きがおこなわれ、指定した金融機関の口座に順次入金されます。
イデコの受取り方 よくある質問
イデコの受取りについてよくある質問を3つまとめました。
- イデコの受取開始は必ず60歳?
-
いいえ。iDeCoの受給開始は、原則として加入期間が10年以上であることが条件となります。10年に満たない場合は、加入期間に応じて受給可能年齢が繰り下がります。
- 10年以上: 60歳から
- 8年以上10年未満: 61歳から
- 6年以上8年未満: 62歳から
- 4年以上6年未満: 63歳から
- 2年以上4年未満: 64歳から
- 1ヶ月以上2年未満: 65歳から
60歳以降にiDeCoに加入した場合は、加入日から5年経過すれば受け取りが可能となる特例もあります。
- 受取方法は途中で変更できる?
-
一度決めた受け取り方法(一時金・年金・併用)は、原則として変更できません。どの受け取り方がご自身に合っているか、事前に十分に検討してから申請しましょう。
- 60歳以降もイデコへの拠出をを続けられる?
-
iDeCoの掛け金拠出は、国民年金の被保険者であれば70歳まで可能です。70歳以降は拠出できませんが、運用指図者として75歳まで運用を続けるのは可能です。
まとめ|イデコのお得な受取り方を知れば損をしない!
iDeCoの受取方法は職業や退職金の有無により最適解が異なります。退職金がある人は受取の感覚を10年以上空ければ控除枠をフル活用できます。退職金がない人は一時金受取で税負担をほぼゼロに抑えられます。
受取前には必ず加入年数、退職金額、他の年金収入を確認し、事前のシミュレーションが重要です。適切な受取戦略により数十万円から数百万円の節税が可能になるため、早めに計画を立てて大切な老後資金を最大限活用しましょう。
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